台風対策への備えとリスク

ここ何年もの間、日本に接近する台風の勢力が強まる傾向が見られ、企業活動への影響が無視できなくなっています。事業の停止を防ぎ、従業員の安全を確保するため、どう備えるべきなのか。今回は最近の発生状況や傾向を交えながら、台風が脅かすリスクや対策などについて書いていきます。

台風の基礎知識

台風は、北西太平洋または南シナ海で発生する熱帯低気圧のうち、最大風速が17.2m/s(34ノット)以上のものを指します。年間を通じて発生しますが、海水温が上昇する7月~10月にかけて発生頻度が特に高まります。

発生した台風は、上空の風や気圧配置の影響を受けながら移動し、特徴的な進路パターンを描きます。一般的に、発生直後の低緯度では、東風に乗って西に進み、次第に北上するにつれて太平洋高気圧の縁に沿って進路を変えます。日本近海では上空の偏西風の影響を受け、進路が北東へと変わることで、日本に接近・上陸するリスクが高まります。

台風の大きさ

気象庁では、台風の大きさに階級を定めています。階級分けの基準は、強風域(風速15m/s以上の風が吹いているか、吹く可能性がある範囲)の半径で示されます。

・大型(大きい)台風 : 強風域半径が500km以上~800km未満
・超大型(非常に大きい) : 強風域半径が800km以上

台風の強さ

最大風速で次のように区分されます。
・強い : 33m/s(64ノット)以上~44m/s(85ノット)未満
・非常に強い  :  44m/s(85ノット)以上~54m/s(105ノット)未満
・猛烈  :  54m/s(105ノット)以上

風速30m/sになると雨戸や屋根が飛ばされることがあり、50m/sを超えると木造家屋の倒壊や樹木の倒木が発生する可能性が高まります。また、「暴風域」は風速25m/s以上の風が吹いている範囲を指し、この区域に入ると屋外での行動が困難になります。

台風被害の特徴

台風がもたらす被害は、「強風」「大雨」「高潮」など多岐にわたります。これらが同時に発生することで、次のような状況を引き起こします。

  • 浸水:台風による豪雨が原因で、河川の氾濫や内水氾濫などの水害が発生すると、オフィスや工場、倉庫などの企業施設が浸水するおそれがあります。
  • 停電:強風によって電柱や送電線が損壊されると、広域的な停電が発生します。企業においては、停電によるサーバーやネットワークの停止、生産ラインの中断、冷蔵・冷凍設備の機能停止など、事業継続に直結する重大な影響が生じます。

近年における台風の発生状況や傾向

気候変動による自然災害の頻発化により、台風の発生数も増加している印象を受けがちです。しかし、気象庁の統計によると、1951年以降の台風発生数や日本への接近数ともに、顕著な増減傾向は見られません。

一方で、日本付近で台風の強度が最大となる位置が、以前より北へ移動している傾向が観測されています。かつては、日本接近時に勢力が弱まっていた台風も、今後は強いまま接近・上陸する可能性が高まっていることを示しています。

従業員の出退勤に関するリスク

台風接近時には、公共交通機関の乱れや道路の冠水により、従業員の出退勤に大きな支障が生じます。公共交通機関の運行状況や道路の冠水状況に応じて、出社・退社のタイミングを計る必要があります。明確な判断基準がなければ、各自の判断に委ねることになり組織的な混乱を招きかねません。リモートワーク中でも、停電や通信障害で状況把握ができなくなる可能性があります。

万が一、企業が危険な状況下で従業員の出勤を強いる場合には、従業員の安全を脅かすだけでなく、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

物的・経済的リスク

台風がもたらす強風や豪雨は、企業施設に直接的な被害をもたらします。建物の損壊、浸水被害、がれきの流入といった物理的損害は、重要な機器や設備の故障へと発展します。特に、サーバールームの被災によるデータ喪失は、事業を長期的に中断させるおそれがあります。

台風による広域停電も、事業継続を脅かす重大な脅威です。製造ラインの停止、IT機能の喪失、冷蔵・冷凍設備の機能不全など、企業の中核機能が麻痺する可能性があります。

台風時に事業継続ができる体制構築

台風発生時にも適切に機能する体制を構築することが、被害の最小化と事業継続には欠かせません。まず、指揮命令系統を明確化し、対策本部の設置基準や各部門の責任者をあらかじめ決定しておきます。これに基づき、具体的な行動手順を記した危機管理マニュアルを整備し、全社的に周知徹底します。

こうした取り組みは、事業継続計画(BCP)策定の一環でもあります。効果的な体制構築には、自社施設の災害リスクを把握しておくことが重要です。ハザードマップや過去の台風被害データを活用し、被災しやすい地点や脆弱なポイントを特定しておきましょう。

従業員の出社判断・行動基準の策定

出退勤に関する明確な判断基準を事前に策定し、社内に周知することで、台風接近時の混乱を防ぎます。公共交通機関の運行状況や気象警報の発令状況など、客観的な基準に基づいた判断ができるよう、具体的なルールを設けましょう。上からの指示がなくても各自が状況に合わせて自身の安全確保を意識し、適切な判断をするよう促すことが大切です。

台風接近が予測される場合は、テレワークの活用も有効です。従業員の安全を確保しながら、事業継続を図ることができます。ただし、災害時には停電や通信障害によりテレワーク自体が困難になる可能性も考慮し、代替手段も検討しておくことが重要です。

緊急時の連絡体制の確立

台風被害により、通常の連絡手段が使えなくなる可能性があります。安否確認や業務連絡といった社内での連絡手段として、考えられる複数の手段を準備しておくことが重要です。例えば、緊急連絡網による電話連絡、社内SNS、メール一斉送信、チャットツール、安否確認システムなどの手段があります。自社の規模や特性に適した手段を選択し、定期的に訓練を実施して実効性を高めましょう。

施設・設備、データの防護

建物自体の対策として、事業所建物の耐風補強を実施し、窓ガラスの飛散防止対策として養生テープでの補強、シャッターの点検を行いましょう。看板やアンテナなど屋外設備の固定を確認し、浸水のおそれがある場所には土のうや止水板などの水害対策資材を準備しておくことも重要です。

機材・機器、重要書類など事業継続に関わる物品は、上層階に設置・保管し、浸水リスクを回避します。特に、データ保護は事業継続の生命線となるため、離れた複数の拠点でのデータ管理を行い、データベースミラーリングやクラウドバックアップを徹底しましょう

防災備蓄品の整備

台風の影響で従業員が帰宅できず、社内での待機を余儀なくされる場合に備え、必要な備蓄品を確保しておきましょう。

企業が準備するべき備蓄品の基本は、保存水(1人あたり1日3リットル×3日分)、非常食(1人あたり3日分)、毛布、携帯トイレ、衛生用品(トイレットペーパー、マスクなど)が挙げられます。オフィス内の人数に加え、来訪者も想定した余裕を持った数量を確保しましょう。

さらに、医薬品や歯ブラシ、毛布、生理用品など従業員の意見を取り入れた必需品や、停電対策としてラジオ、ランタン、蓄電池、非常用発電機と燃料も備えておくことも重要です。

最後に

台風の発生パターンは、気候変動の影響により変化しつつあります。勢力が強いまま北上し、これまで台風被害の少なかった地域にも影響を与えるケースが増えています。台風対策は、もはや特定の地域だけの問題ではなく、全国の企業にとって事業を継続するうえで重要なテーマとなっています。